さぼてんの花

シンプルライフと趣味と時々資産運用(家計簿)

民子(仮名)の朝

民子(仮名)の朝は早い。家の誰よりも早く起き、朝食を作る。味噌汁は無添加の鰹節で引き、麹の赤味噌をとく。丁寧に焼いた塩しゃけがつやつやと光り、付け合わせには小松菜と上げの煮びたし。小松菜は家の前で自家栽培しているものだ。姑が口うるさいので、スーパーではめったに野菜は買わない。

勿論。子供たちの朝食も欠かさない。大人よりも気を使い、豆乳に赤たまごのスクランブルエッグ、自家製のトマトケチャップを添え、有名な高級スーパーで買ってきたヨーグルトがデザートだ。

そんな毎日を辛いと思った事はなかった。家族は民子(仮名)にとってかけがえのないものだし、口うるさい姑の、自分の至らない部分を指摘し、自分を成長させてくれようとしているのだと思えば、日ごろのお小言も励ましになる。

民子(仮名)幸せだった。家族に尽くしているそんなひと時が、そしてそんな自分が・・・

 

しかし、今日は違っていた。赤たまごのスクランブルエッグを作っている時に気が付けばよかったのだ。朝食づくりに集中しすぎていて、忘れていたのだ。

家族を起こすことを。

時計を見れば7時。夫が会社に行く時間が近づている。民子(仮名)は焦った。すぐに夫婦の寝室に駆け上がり、夫を叩き起こす。案の定「なぜ起こさなかった」と叱られ、さらには、昨日用意していたシャツとネクタイの色合いが気に入らないと、さらに叱られる。「全く、なぜこんな事も出来ないんだ。誰に食べさせてもらっていると思っている。」

民子(仮名)はパートで働く普通の主婦である。仕事をしながら家庭も頑張れるような器用な性格ではなかった。その方が性に合っていたのだ。落ち込む民子(仮名)しかし、そうこうしているうちに子供たちを起こす時間である。民子(仮名)は焦った。まず長男の部屋へ行く。最近反抗期を迎えた長男は、こちらが一言発しようものならその十倍は文句を言う年頃で、案の定「うるさい」と民子(仮名)を一括してまた眠りについてしまった。

長女は、その点安心である。ちゃんと自分で起き、服を着替え、高校生になったお祝いに送ったスマホを片手にキッチンへやってきた。民子(仮名)はなんとか長男を起こすと、急いで朝食の支度にとりかかる。

机の上では、出かける支度もそこそこに文句を言いながら食べる夫。味噌汁は好きじゃないからコーンスープな無いのかと言う長男。ダイエットだと、民子(仮名)が作った朝食に箸もつけなずスマホばかりいじる長女。そして、「全く、まだ味噌汁の味も上手く決まらないのかい。至らない嫁だね!」と小言を言う姑。

本当は、時間通りに夫を起こし、朝食を準備し、子供たちを起こし一緒に朝食を食べ、夫を見送り、そして静かに家事に勤しむつもりだったのに・・・民子(仮名)は言い知れぬ倦怠感を味わっていた。張り詰めていた糸がブツンと切れた気がする。

怒りの感情という物はきっかけさえあればすぐに心のコップを溢れ返させてしまう。

文句ばかりの姑、亭主関白な夫、自分のありがたみをわかろうとしない子供達。

民子(仮名)は思った。(私がどれだけ頑張っていると思っているのよ!私がいなければ貴方達はどうするつもり?私は!貴方達の召使じゃないわ)

始めて味わう感覚だった。腹の奥から熱くどす黒いものがせりあがり。こめかみをチクチクと刺激する。民子(仮名)は思った。

(こんな家!!こんな家!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………ぐらい機嫌が悪いんだったら、私が折角あんた(パート)を思いやって食堂に暖房をつけておいてあげたのに、開口一番「熱い!熱い!こんなところにでご飯食べろっていうの?」とか「あんたたちは座っていて楽な仕事だから、体動かす暑さは分からないわよねー」ってとかのたまっても「そうですね。」と菩薩のような心で聞き流しができるだろうによ・・・。